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展示の感想

展示に行き、展評には載せていただかなかったけれど 折角書いたしっていう展示感想メモのようなものをここに残しておこうと思いました

しっかり推敲をしていない、誤字脱字もあまり見ていないくらいの荒っぽいものになっていますが、 もしどうにも展示内容などが間違いで気になる、というようなものがありましたら ご指摘いただけたらとてもありがたく……

カミーユ・アンロ 蛇を踏む(東京オペラシティアートギャラリー) https://www.operacity.jp/ag/exh226/

 フランスで生まれ、アメリカを拠点に活動するカミーユ・アンロ氏は世界的な評価が高いだけでなく、意外……といっては語弊があるかもしれないですが、でもこれまで日本国内の大規模な発表の場がほんとうに少なかったにもかかわらず、日本国内での人気も大変に高い現代美術作家です。

 彼女は立体物のインスタレーション、ドローイング、映像などによって、一見無秩序で雑多にも思える情報を、個人的な、ひとりの人間が抱える教養のような形で空間に展開していきます。

これは現在に立ち現れるウンダーカンマーというような、博覧強記的でありつつ同時にとても精神の中の秘密めいたできごとでもあって、青い色はPCの立ち上がりの、OSすらも目覚める前のBIOS画面のようでもあり、また映像合成の世界であれば透明とも見なされる背景のようにも思えます。

 今回は日本でのオリジナルとして「革命家でありながら花を愛することは可能か」という作品シリーズを、草月流とのコラボレーションよって展開していました。これは書籍をモチーフにした植物のオブジェ(生け花、といっていいと思うが、それらはとても自由な形状や質感のもの)が、一冊の作品につき一つ、展示されています。ハンナ・アーレントやバロウズなど国籍もジャンルもばらばらなもので、日本人作家の書籍も並んでいます(ちなみに展示タイトルも、当然書籍のタイトル……ですね)

 「華氏451度」でも、本を別の形で秘密裏に保存する、という設定がありますが、本の燃える温度をタイトルに置いたその物語はフィクションではあるけれど、世界では書物があらゆる方法で燃やされたり発行が禁じられたり、読めるほどの知性を剥奪(直接的ではなく、とても卑怯な方法で)されたり、また読書会というものが取り締まられる事実も存在しています。

 物語の情報を、花、植物といった遺伝子情報を詰めた生き物と同化させるような、その植物標本室のような展示空間を、タイトルや作者、そうして文章の一部抜粋を読みながら歩いていくと、ドローイングやインスタレーション、映像の中へと順路は続いていきます。

 ディズニー映画『美女と野獣』でヒロインのベルは本を読むことが好きで、村の中で変わり者扱いされていました。物語を読み自分の知識を強化することは、周囲の住人にいい知れない不安を呼び起こすのかも知れないな、とも思うのです。彼女は最終的に自分の得た知識によって、自分自身の判断で、野獣を信頼に足る人格を持つものだと決定します。

 魔女狩りが行われていた中世、人々が恐れたのは知識のある女性だったのではないんでしょうか。自然のあらゆることに詳しく、毒物や治療に詳しく、人体や精神に詳しく、世界のあらゆることを知ろうとするものを怖がる。自分たちが知らない知識から何かを読み取ることが、知らないものの目線からは「シャーマン」と変わらない。さらにいっぽうで、あらゆる時代の局面では、力のない人たち、特に若者や女性が本の回し読みをして知識を持つことを、為政者は嫌悪したのかもとも思うのです。

そういったものへの軽やかな(そうして若干不穏な)カウンターとしての、開かれた彼女の博物の場、みたいなものは、性別年齢を超えた福音を多くの人に与えるのかもしれないな、と思いました。

カミーユ・アンロ 蛇を踏む 2019年10月16日-12月15日 東京オペラシティアートギャラリー

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